日本には中央競馬(JRA)と地方競馬という競馬団体がありますが、お隣の香港でも香港ジョッキークラブという香港における競馬の競技団体があります。香港ジョッキークラブは2018年8月28日に、中国広東省に建設していた従化競馬場をオープンさせました。この競馬場は馬の訓練とケアをする優れた施設を兼ね備えている事で知られています。
しかし中国本土では馬券発売は法律で禁止されています。それなのに何故香港ジョッキークラブは中国本土に従化競馬場を建設したのか…そのたった一つの理由と、香港競馬が建設した巨大トレセンである従化競馬場の魅力に迫ってみたいと思います。
香港ジョッキークラブの基本情報
香港競馬の競技団体である香港ジョッキークラブは1884年に前身の「ロイヤル香港ジョッキークラブ」として統括団体が発足され、1997年にイギリス領から中国に返還されるタイミングで名称からロイヤルを外し、今の名前になりました。香港ジョッキークラブが香港内で所持している競馬場は2つ。
- 沙田競馬場(シャティン競馬場)
- ハッピーバレー競馬場
この2箇所で競馬レースを行っていて、原則として毎週水曜日にハッピーバレーでのナイター開催、週末はどちらかの競馬場で日中開催が行われるのが通例となっています。特に注目すべきレースは、シャンティ競馬場で開催されている香港国際競走(12月)とクイーンエリザベス2世カップ(4月)で、この2レースは香港を代表する国際招待競争として有名で、世界中から強豪馬が多数参戦する事で知られています。
競馬の売上は年々低下
香港ジョッキークラブは隣接するマカオで行われている競馬の主催団体であるマカオジョッキークラブとの交流が行われるようになりマカオ地区での香港開催レースの場外発売を委託しています。しかし香港ジョッキークラブの競馬の売上は年々低下しています。香港ジョッキークラブは宝くじ六合彩や、国外で行われているサッカーへのサッカーくじなどの賭博すべての胴元となっており、競馬の売り上げが次第に低下してきたこともあって、最近ではサッカーくじの発売額が、ジョッキークラブの総売り上げでも大きなウエイトを占めるようになっています。
クイーンエリザベス2世カップ
香港で開催されているクイーンエリザベス2世カップは国際招待競争レースとして有名で、世界各国の有名馬が参戦する事でも知られています。優勝賞金は1368万香港ドルで日本円で約1億8900万円という高額なレースで、格付けは当然G1です。1975年から開催されているレースで、今まで日本馬は4頭で5回優勝しています。過去に優勝した事のある日本馬は…
- 2002年&2003年:エイシンプレストン
- 2012年:ルーラーシップ
- 2017年:ネオリアリズム
- 2019年:ウインブライト
特に有名なのがエイシンプレストンの2連覇です。このレースで2連覇した事がある馬は現在においてもエイシンプレストンだけという快挙を達成しています。騎手は福永さんです。
香港国際競走
香港国際競走は毎年12月第2週に開催されている競馬イベントシリーズのメインイベントです。香港競馬年度シーズン前半最大のイベントで、4つの異なるG1レースが同日に開催され、世界各国から有名馬が参戦する事で知られています。それぞれのレースと賞金額は以下のようになっています。
- 香港ヴァーズ:芝2400m、2000万香港ドル
- 香港スプリント:芝1200m、2000万香港ドル
- 香港マイル:芝1600m、2500万香港ドル
- 香港カップ:芝2000m、2800万香港ドル
2001年の開催では香港マイルをエイシンプレストンが、香港ヴァーズをステイゴールドが、香港カップをアグネスデジタルが制覇し日本調教馬による同一開催日G1競走3勝を成し遂げています。
1日で以上のG1レースが全て同日に開催されます。日本馬の優勝も多く、香港スプリントだけ長らく日本馬の優勝がありませんでしたが、2012年にロードカナロアが制覇しました。これにより香港国際競争全てで日本調教馬が勝利を挙げています。
従化競馬場の基本情報
香港ジョッキークラブは中国広東省に従化競馬場という競馬場をオープンしました。この競馬場はレースをするだけではなく、馬の訓練とケアを行うトレセンとしての施設も兼ね備えています。中国本土に建設した理由なども説明していきましょう。
37億香港ドルで巨大施設を建設
香港ジョッキークラブの新たな調教拠点となる広大な競馬場として誕生したのが従化(ツォンファー)競馬場です。広さは150万平方メートルで東京ドーム約32個分。メインコースとなる右回りの芝コースは1周2000メートルで直線は約400メートルです。内側にある2つのオールウェザートラック、レイアウトはシャンティン競馬場に似せて建設されました。
敷地の一角には全長1100メートルの芝の坂路コースも設けられています。香港ジョッキークラブの建設費用に投じた金額は37億香港ドル(約526億円)と巨額です。香港ジョッキークラブ会長のサイモン・イップ教授は、開会式にて、同施設について以下のようにコメントしています。
香港ジョッキークラブは、競馬競技の世界的リーダーであり、世界のいくつかのトップ競走馬のホームでもあります。従化競馬場は、我々のレースレベルの卓越性を高めることを可能にするでしょう。本土初の世界トップクラスの馬の病院や、馬の訓練とケアの優れた施設を持っています。従化区は空気と水の質も高く、高い環境基準を持っています。馬を訓練する絶好の場所と言えます。
中華人民共和国広東省広州市の市轄区である従化区に位置していて、広州から車で約1時間、香港にあるシャンティン競馬場から車で約4時間半の場所に位置しています。広大な施設に様々なトレーニング施設があるだけでなく、最大650頭の競走馬を収容可能な厩舎も兼ね備えています。
賭博禁止なのに何故中国に建設した?たった1つの理由
中国本土では馬券発売が禁止されている為、中国本土に建設した従化競馬場では馬券を発売する事ができません。馬券発売を伴わない競馬レースも既に開催されています。競馬場は馬券を買ってもらわないとお金を稼ぐ事ができないのにも関わらず何故37億香港ドルという巨額を投じてでも中国本土に競馬場を建設したのか…その理由はたった一つです。
『中国本土の馬券販売解禁を見越した先行投資』…これが香港ジョッキークラブが巨額と投じて中国本土に競馬場を建設したたった一つの理由です。ちなみに中国本土では2018年1月に公安部から賭博犯罪の取り締まり強化号令を発令したばかり。夏に開催されるワールドカップロシア大会時には広東省だけでな賭博容疑により540人が逮捕されていて、現金44億円が凍結されたと言われています。賭博取締り強化の流れが進む中国で果たして本当に競馬でのギャンブルが解禁されるのでしょうか…という疑問点はあります。
しかし中国は昔は競馬場がありました。90年代には広州と北京に競馬場が建設されていて、馬券の発売もされていたという過去があります。しかしその後場外賭博行為が激しくなった事が影響し、競馬場は営業停止となり現在に至ります。2000年台初頭に再び競馬解禁の提案が出て、非賭博性のレースが開催されるなど競馬復活の流れは出始めているものの、禁止と解禁を繰り返している事から、中国で競馬が完全に解禁される道のりは長いと言われています。
香港ジョッキークラブCEOであるウィンフリード・エンゲルブレヒト-ブレスケス氏が、昨年12月に行った競馬記者との懇談の席で公表した内容によると、従化競馬場がある従化という地区は温泉が出るリゾート地として知られており、観光資源の1つとして競馬が根付くことを将来的な目標としていると語っています。どちらにせよ中国本土で競馬が解禁されない限りは、膨大な建設費用を回収する事はできないと言われています。果たしてこの決断がどうなるか…。
5レースが中国で開催
引用元:http://japanese.china.org.cn/photos/2018-08/29/content_60873083_2.htm
香港ジョッキークラブは2019年3月23日に中国本土で正式にレースを施行しました。観客の中には地元政府の高官の姿も見られたと言われています。従化競馬場の芝コースにて5つのエキシビジョンレースが開催され、午後の豪雨以外は何の支障もなく開催されました。もちろん馬券の発売はありません。
香港ジョッキークラブのCEOウィンフリード・エンゲルブレヒト-ブレスケス氏は「これは歴史的瞬間で、大成功を収めました。長い道のりでしたが、この結果に満足しています」と語り、広州周辺から約3500人の観客が競馬場に足を運んだと言われています。
観戦した香港の行政長官であるキャリー・ラム氏は「本日の競馬開催は、中国本土に世界レベルの馬スポーツをもたらす新しい時代の幕開けです」と語り、中国本土で世界クラスの馬の専門家を育て、中国の馬スポーツの継続的な成長を確かにする為に香港政府と強調すると語っています。「本日の競馬開催は目覚ましいものでした。HKJCと従化区の自治体が共同で組織しただけでなく、香港政府と広東省の高いレベルの協力体制の称賛すべき見本にもなりました」とも話しました。
まとめ
香港ジョッキークラブがなぜ賭博禁止の中国本土に莫大な予算をつぎ込み従化競馬場を建設したのか…その理由を理解してもらえたでしょうか。中国本土では今まで何度も競馬の開始、中止を繰り返しています。中国で競馬がスタートされれば、人口が多い事もあり多くの利益を得る事ができます。その先行投資として香港競馬は中国本土で競馬場を建設し、中国競馬の発展に尽力しようとしているのです。
従化競馬場はトレセンとしても優秀な施設を多く備えていて、世界で活躍する馬を中国本土で育成するという夢を抱えています。これからの香港競馬、さらに中国競馬からは目が離せないと言えるでしょう。
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